久しぶりに来た原点とも言えるこの場所は、数々の思い出を共にした高校時代と何も変わっていなかった。
 満開の桜が、彼女と出会った日を自然と思い出させる。
 ベンチに腰掛け、携帯を取り出してプレイリストの中から桜ソングを順に聴いていく。
 懐かしさが胸に迫り、じんわりと込み上げてくるものがあった。

 ここに来るのはふみちゃんと病院で別れたあの日以来で、病院を後にしてふみちゃんの想いをとしと立花さんに伝え、三人で泣き合ったのが最後の記憶だった。
 あれから悲しみに暮れる間もなく、僕たちはそれぞれ大学に進学して、忙しない日々を過ごした。
 悲しみで立ち止まっていてはふみちゃんに顔向けできないので、僕は彼女と約束した夢を叶えるべく、勉強や教員採用試験の対策に時間を費やした。
 ただ、そういった勉強面だけではなく、教師という職業はコミュニケーション能力も大事になってくるので、人との関わりにも逃げずに向き合っていった。

 最初はもちろん怖さもあったが、としの助言もあって自分から同じ学部の子に話しかけていった結果、気を遣わずに信頼できる友達が何人かできた。
 その友達の中で同じ読書という趣味を持っている子から読書サークルに誘われて入ってみると、大好きな本について語り合うという貴重な経験ができ、その時間は刺激的で至福の時間であった。
 そんなこんなで何とか大学生活に馴染んでいったのだが、もちろんふみちゃんと約束した通り、としと立花さんとも可能な限り予定を合わせて時間を共にした。
 
 当たり前のことだが、ずっとふみちゃんの側にいた立花さんは、初めの頃しばらく心を閉ざして僕たちの誘いを断ることが多かった。
 しかし、としの持ち前のしつこさで諦めずに誘い続けた結果、徐々に顔を出してくれるようになり、今ではみんなでふみちゃんとの思い出話をできるまでになった。
 三人で集まる時は自然とふみちゃんの話題になることが多いのだが、立花さんしか知らないふみちゃんの情報がたくさんあり、また新たなふみちゃんを知ることができて新鮮だった。
 そんな三人で共有する時間が増えていく中で、高校時代と明確に変わった関係性が生まれた。
 
 それは、としと立花さんが友達から恋人関係になったことだ。
 大学三年になりたての頃から付き合っている。
 としは大学でも持ち前の明るさで男女問わずに友人がいたが、立花さんへの恋心だけは何も変わることがなかったらしい。
 一方の立花さんも、一番辛い時期に支えてくれたとしに自然と心を開いていって、気づいたら友達とは違う感情が芽生えていったようだ。
 最初付き合ったと聞いた時は驚愕したが、すぐに僕の心は嬉しさや安心感で満たされていった。
 なぜなら、ずっと想い続けていたとしの気持ちが立花さんの心に届いたことが自分のことのように嬉しかったし、ふみちゃんが心から安心できたと思ったからだ。
 『もう安心だね』と心の中で彼女に語りかけると、僕の大好きな彼女の笑顔が自然と思い浮かんできて、何とも言えない充足感に包まれた。
 高校時代を鑑みると、二人が付き合ったのは奇跡に近いように思うが、今では結ばれるべくして結ばれた二人なんだと心から思う。