卒業式当日は、雲ひとつ見当たらないような晴天に恵まれた。
式の最中は高校生活の数々の思い出が脳裏を駆け巡り、そのほとんどが四人で積み重ねてきたものであった。
卒業式の雰囲気も相まって思わず涙しそうになったが、あまりにも泣くにはタイミングが違いすぎたので必死に堪えた。
式が終わると教室に戻り、住田先生が顔をぐちゃぐちゃにしながら最後のホームルームを執り行った。
僕等はサプライズとして、先生への感謝の気持ちを歌に込めて送った。
この時はクラスの大半が泣いており、僕もここは泣けるタイミングだと判断して、お世話になった先生への感謝の気持ちを我慢せずに溢れさせた。
いつも僕のことを信じてくれて、味方でいてくれた先生。
住田先生のような教師になれるように、諦めず頑張ることを改めて心に固く誓った。
ホームルームが終わるとそれぞれクラスメイトと別れを惜しんでいたのだが、その中でもとしと羽田野君が握手をして抱き合っていたのが特に印象的だった。
その時は教室中が笑いの渦に包まれ、僕ももちろん心から笑っていたのだが、どこかでこのやり取りをもう見ることができない寂しさを感じていた。
別れの時の流れはあっという間で、学校を去るのが名残惜しかったが、としと僕は目的を果たすために友達や先生に別れを告げて校舎を後にした。
向かう場所は、僕の人生を変えてくれたかけがえのないあの場所である。
そこで僕たちは、もう一つの〝卒業式〟を挙行する。
僕たちが出会ったこの高校生活最後の日に、ふみちゃんと立花さんを待つことを卒業すると決めたのだ。
「ここに来るのも今日で最後だと思うと寂しいな」
思い出の土手をいつも通り僕より少し先を歩くとしが、前を向いたまま僕に語りかける。
「そうだね、結局会うことはできなかったね」
「俺らも新しい一歩を踏み出すために、前を向かないとな。ただ、二人が元気に過ごしてくれてたらいいな」
本当にその通りだと思う。二人が元気でいてくれれば、それでいい。
「あと環境は変わるけど、俺らは今までと変わらず、ずっと仲良くしていこうな!」
「もちろんだよ!としは僕のかけがえのない親友だからね」
彼は照れているのか、少し髪が伸びた前髪を不自然にいじっている。
それから心地の良い沈黙が春風に乗って流れてきたので、僕はしばらく目を閉じて春の陽光を感じながら歩を進めた。
この場所で過ごしたふみちゃんとのかけがえのない日々を思い出しながら、その記憶を胸に刻み込む。
〝ガシャン〟
突然の大きな音と自分の押し歩いていた自転車が何かにぶつかった反動で、春の夢心地から一気に目が覚めた。
状況を確認すると、としが立ち止まって一点を見つめており、僕の自転車が彼の自転車にぶつかっている。
「びっくりした……。急に立ち止まってどうしたの?」
「啓太、あれ……」
としが指をさしている方へ目を遣ると、一人の女性が家のベンチに座っていた。
一瞬時が止まったような錯覚に陥り、それから心臓の鼓動が急激に速くなる。
僕たちは言葉を交わすことなくお互い自転車に跨り、一目散に駆け出した。
