何もかも溶かしてしまいそうな真夏の太陽が容赦なく照りつける中、コンビニで買った〝ガリっ〟と音がする水色のアイスを二つ持ち、僕の家から一番近くにある公園のベンチに腰かける。
 アイスを食べている間のBGMは求めていないのだが、ほぼ強制的に蝉のアンサンブルが耳の中に入り込み、鼓膜を振動させる。

 「やっぱ夏はこれに限るな!」

 勢いよくアイスを頬張ったとしが、数多の汗を額に光らせながら呟く。
 僕も一口齧ると、氷の冷たさが頭をキーンと刺激し、ソーダの甘みが口の中いっぱいに広がった。
 
 学校は現在夏休みに入っており、まもなく一週間が経過しようとしている。
 初めて四人で遊んだ日からも定期的に四人で集まっており、ボーリングを楽しんだり、テスト勉強を一緒にしたりと有意義な時間を過ごした。
 そこでふみちゃんが、進学校である彩美女学園で五本の指に入る秀才だということを初めて知り、勉強のコツを教えてもらった結果、夏休み前のテストの順位を大幅に上げることができた。
 
 その一方でボーリングに関してはというと、初めてだから仕方ないと自分に言い聞かせているが、二ゲームともスコアが五十点台と散々な結果に終わった。
 墓場まで持っていきたい過去リストに、否応なしに追加される。
 
 夢物語は順調に毎週進んでおり、趣味や特技、そして幼少期のことなどお互いの人となりがさらに深くわかるような話題を展開していた。
 趣味のところでお互いの共通のものに映画があり、好きなジャンルを答え合ったのだが、彼女がミステリーが好きだということで僕も合わせてミステリーと答えた。
 
 ただ、実際に一番好きなのは誰も予想だにしないと思うが恋愛映画である。
 恋愛映画の中でも好きなのは感動系で、映画を観ながら号泣し、心がデトックスされる感じが堪らない。
 夢物語にも本当は事実を書こうとしたのだが、どうしても恥ずかしさが心の大部分を占めてしまい、どう足掻いてもそれを打ち消すことはできなかった。

 「もうすぐ花火大会か~、楽しみだな啓太!」

 どういう風に食べたのか観察してなかったことを後悔するぐらいのはやさでアイスを食べ終えていたとしが、僕に語りかける。
 待ち焦がれていた花火大会が、もうあと三日後まで迫っていた。
 今日は何か重大な出来事があるときに定番化しつつある、作戦会議を実行するために僕の家に集まっていた。

 「うん、楽しみだね」

 「だがしかし、今の俺は緊張感に苛まれている」

 としからは不可測な難しい言葉が飛んできたので、僕は思わず彼の顔を凝視してしまう。
 初めて四人で遊んだ日から定期的に集まっていく中で、彼は立花さんの強さと優しさを併せ持ったその人柄に心奪われていた。
 友達の僕から見ても、立花さんは自分の芯をしっかり持っているとても素敵な女性だ。
 この花火大会という絶好の舞台で、男として勝負に出るらしい。

 「啓太も想いを伝えたらどうだ?」

 「いや、僕には到底無理な話だし、まだふみちゃんのこと恋愛的に好きかどうかもわからないし」

 「ふみちゃんのこと好きなのはどこの誰が見てもわかるぞ」

 もちろん彼女は魅力的な人だし、接している中で胸が高鳴ることが何度もあることもわかっている。
 ただ、恋愛経験のない僕にとって、この気持ちが世間一般でいう恋というものなのか断定するにはまだ時間が足りなかった。
 
 さらに言うと、僕がこんなに短期間で告白できる勇気ある心の持ち主だったら、人生もっと薔薇色に染まっていたはずだ。
 考えれば考えるほど僕の悪い癖であるネガティブなほうに捉えてしまうので、一旦思考を停止させる。

 「僕はもう少し自分の気持ちがわかってからにするよ。今回はとしの決心を全力で応援する!」

 「サンキューな!髪型はこれで決まったし、あとは服装と告白の場所とシチュエーションと言葉と……考えること盛りだくさんや!」

 髪型は彼の行きつけの美容室に一昨日連れて行ってもらい、美容師さんの勧めでマッシュスタイルにした。
 としがなぜ美容室に通う必要があるのかいささか疑問を抱いたが、彼の坊主にはこだわりがあるらしい。
 美容室は人生で初めてだったので、ずっと緊張していて美容師さんに力を抜いてと何回も言われた。
 気疲れしてしまったが、仕上がりは今まで見たことのない自分が新鮮で大満足だ。

 「じゃあそろそろ真っ直ぐ家に帰って作戦会議を、、、」

 「よしっ!頭を使う前にまずは運動や。啓太の家の周り五周走るぞ」

 としは僕がスパイクを放った〝真っ直ぐ〟の部分を、いとも簡単にブロックしてしまったみたいだ。
 運動が大の苦手な僕にとっては迷惑な話でしかないのだが、作戦会議の前に運動をするというのが僕たちの中でルーティン化していた。
 毎回ヘトヘトになり、回復するまで時間がかかるので、作戦会議の最初の方は頭に入っていないことが多々ある。

 「最高の花火大会にするぞ。ついてこい啓太!」

 まだアイスを食べ終わっていない僕の状況などお構いなしという様子で、としは靴紐を結び直して駆け出していく。
 少し溶けかけているアイスの最後の二口分を一気に口に押し込み、頭に刺激を感じながらも遠ざかりつつある彼の背中を必死に追いかけた。