今日も朝から雨。ここまで来ると、梅雨も嫌いになってくる。学校に着く前から、傘の柄に手をかけながら、昨日のあの子を思い出していた。恥ずかしい。ただの変態認識になってないといいけど。

「あ、湊くんおっはよ〜」

背後から声。振り向くと、今日も飯塚雨音がいた。

「昨日はありがとうございました……って言うのも変か」

軽く会釈する俺に、飯塚雨音はにやり。

「昨日ね、あなたの顔、赤かったよね~。面白かった~w」

(クソー、俺は顔なんて赤くなってなかったぞ!)

必死に心の中で否定する。あんなの飯塚雨音が全て悪いんだし。

「そういえば、飯塚さん、俺の名前知ってたんですね。」

「クラスの人の名前覚えられない人がクラス委員なんかになれないでしょ。あと、雨音でいいよー。苗字で呼ばれるのなれてないし。あとタメでいいからね〜」

「わかりましたです。雨音…さん。」

「さらにおかしくなったな。まあいいか。あ、そうそう、今日も一緒に帰るよ〜」

「……はい?」

「相合傘、ね♪」

そう言って少しだけ近くに傘を差し出してくる。肩が触れそうで触れないあの感じを思い出し、また心臓が妙に跳ねる。
本当に何がしたいんだろう?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

帰り道、雨脚が弱くなったり強くなったりする。雨音はしゃべりながら、突然スキップしたり、雨に手をかざして水滴をはじいたりする。

「また君と相合傘…だね♪」

「なんで俺となんです…か?」

「それは…教えない♪フフッ」

この人は本当に考えていることがわからない。なんで俺に近づいてきたんだろう?

雨脚が少し弱まった頃、雨音はふと足を止めて、地面に落ちる水滴をじっと見つめた。

「あ!ねえ、湊くん、見てみて!ほら、あそこにまたハートの水たまりができてるよ!」

俺は少し驚きながらも、雨音の指差す先を見る。確かに、雨の水たまりが自然にできたとは思えない、完璧なハートの形をしている。

「本当に偶然なんですかね…?」

「うーん、自然の力ってすごいよね。誰かが意図して凹ませたわけじゃないのに、こんなにきれいな形になるなんて、まるで魔法みたいだよ」

彼女は楽しそうに笑いながら、また水滴を指で弾き飛ばす。

「ねえ、湊くんもやってみてよ。ほら、こうやって…」

俺は少し戸惑いながらも、雨音の真似をして水たまりに手を伸ばす。水滴が弾けて、冷たさとともに心地よい感覚が伝わる。

「ほら、見て!水の動きって本当に面白いね!」

「確かに…」

静かな雨の中、二人だけの時間が流れる。雨音が優しく包み込み、まるで世界が少しだけ静止したかのようだ。

雨音はふと、こちらを見て微笑む。

「ねえ、湊くん。今日も一緒に帰れて、なんだか嬉しいな。」

その言葉に、心臓が少しだけ高鳴るのを感じる。

「なんで俺と一緒に帰るのが嬉しいんんですか?」

「フフッ、それはね〜。教えない!」

「なんでですか〜?教えてくださいよ〜。」

小さな日常の中で、昨日とは違う感覚が胸に生まれる。
雨がしずかなくらいで、雨音の声も笑顔も全部心に入ってくる。

「ま、雨の日は嫌いじゃないかもね」

心の中でこっそりつぶやく。
――まだ嫌いじゃないって言い切れない自分に、少しだけ戸惑う。