朝から学校全体が妙な緊張感に包まれていた。
昇降口ではいつもよりざわつきがあり、教室でも「誰に入れる?」なんて声がひそひそと飛び交っている。

「湊、大丈夫か?」

俊介が席に腰をかけながら小声で聞いてきた。

「……さあな。もう俺にできることはないし」

雨音は隣の席でノートを閉じ、俺を見て小さくうなずいた。

「ちゃんとやったんだから、大丈夫だよ」

その言葉に少しだけ力が抜けた。

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体育館へと1年生から順番に集められ、実際使われている投票箱と机を市から借りて、それを使って投票をするらしい。
体育館の空気が一段と張り詰める。

俺は順番になって机の上に置いてあった白い紙を見つめる。
――ここに名前を書くことで、みんなが決めるんだ。今日が運命の日なんだ。ー

手を震わせながら書き終えて、投票箱に票を入れた。
箱の中に自分の票を落とす瞬間、心臓の音がやけに大きく響いた気がした。

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「ふぅー、終わったな」

俊介が両手を伸ばして椅子にもたれる。

奈々子がくすっと笑いながら「湊、顔真っ青だったよ?」とからかう。

「うるせぇ……」

その横で雨音は静かに微笑んでいた。

「でも、本当に頑張ったね。明日が楽しみだよ。」

その笑顔を見て、緊張から解放されたのか、肩の力が抜けていく。

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昇降口で靴を履き替えたあと、自然な流れで雨音と一緒に歩き出す。
夕暮れに染まる道を並んで歩くのも、もう当たり前のようになっていた。

「明日の発表、どうなるかな」

「……正直、怖い」

俺が漏らすと、雨音は小さく笑った。

「でもね、もし湊が受からなくても、私はちゃんと応援するから」

「……お前な、さらっと言うなよ、そういうの」

「え、なに? 別に普通のことじゃない」

雨音は首をかしげて笑う。その無邪気さに、不意に胸が熱くなる。

――明日、結果が出る。
それがどんな形であれ、この数週間が無駄じゃなかったことだけは確かだ。

俺は心の中でそう呟いた。