壁の中の彼氏

「意味がないのなら物語を考えることをやめればいいのに、それもできなかった。俺は自分のことをなにもかも忘れてしまったから、物語を考えることだけが自分である証になっていたんだ」
 絶対に形になることはない物語。絶対に誰にも聞かせることのない物語。
 それを作り続けるというのはどれだけ孤独で、寂しいことだっただろう。
 亜美はそっと壁に手を触れた。
 ヒヤリとして冷たくて心地いい。
「私が来てからあなたは救われた?」
「もちろんだ。こうして会話することもできるし、自分の作品を書いてもらうこともできる。まるで天国に来たみたいだ」
「縁起でもないこと言わないでよ」