「それじゃあ今日も残り時間はゲーム形式の練習にしようか」

ここ最近、休日の部活は残り一時間になると試合形式の練習をするようになっている。

よし、ここでまた私の強さをみんなに見せつけてやる。

ぎろりと辺りを見渡すと、部員たちが視線を逸らしていく。
私と試合をして、ボロボロに負けるのが怖いのだ。

「竹口さん、たまには僕と試合をしてくれないかな?」

東先輩と試合するのは久しぶりだ。
私のバドミントンの強さが騒ぎになったとき、一度試合をしたことがある。
その試合も私が勝ったけどね。

「もちろんです。私も東先輩とまた試合したいと思ってました」

体育館にいる部員全員の視線が私と東先輩の試合に集中しているのがわかる。

いつもはおっとりとした優しい部長だけど、東先輩は強い。
二年の時、あと一歩で全国大会に進めそうだったって聞いているもんね。

でも私は前に東先輩に勝ったんだ。
この部活の中で一番強いのは私に決まっている。

「サーブは竹口さんからでいいよ」

「それじゃあお言葉に甘えて」

パシっとシャトルを打ち、サーブを打つ。

東先輩のショットは他の人とは全然違う。
一発一発が速いし、重い。軌道だって簡単には読み切れない。

やっぱり、すんなりとは勝たせてくれないよね……。

でも、だからこそヒリヒリする試合は面白い。

一ポイントを取るまでに長いラリーが続く。
ポイントを取って取られを繰り返し、お互いが十一点を取った。

よし、あともう半分。

私は天才だ。この試合、私なら勝てる。

東先輩が天井に向かって高めのサーブを放つ。
シャトルの軌道は読めている。返すのは難しくない。

ってあれ。膝がガクガクと震え、思うように足が動かない。

初動が遅れる。態勢が定まらないまま、なんとかショットを返す。
一瞬の隙を東先輩は見逃さない。

強烈なスマッシュを打たれポイントが取られてしまった。

「東先輩のスマッシュ、かっこいい」

一年女子が黄色い歓声を上げる。パチパチと拍手まで聞こえてくる。
何よ、私がまるで悪役みたいじゃない。

東先輩のサーブがまだ続く。毎回軌道の違うサーブを使い分けてくるから厄介だ。

さっきからどうも足が思うように動かない。
そのせいで東先輩の攻撃的なサーブにうまく対応できないよ。

なんとかポイントを取り返した時、もう東先輩は十六点目を取っていた。

この私がリードされるなんて。
でも大丈夫。ここから先、ポイントを取り続ければいいだけ。

他の部員の視線がズキズキと棘のように刺さる。
私は負けない。どんな相手でも、どんな状況でも勝つんだ。

とはいえ、すでに体力がかなり落ちてきている。
ここは攻撃的なショットを避けて意表をつくしかない。

いつもの調子でネットギリギリのサーブをポンっと放つ。

しまった、力がうまく入らず甘い軌道になってしまった。

東先輩が私のミスを見逃すはずがない。強烈なサーブを叩き込まれすぐにポイントを取られてしまった。
ま、まずい。もしかして私、追い込まれている?

「部長、竹口にリードしているよ」

「もしかしてこのまま部長が勝っちゃうんじゃない?」

東先輩が攻めたサーブを繰り返し打つ。点差だけがどんどん広がっていく……。

そして、東先輩が二十点目を獲得した。
マッチポイント。次取られたら、私の負けだ。

私が負けるなんて。そんなのあり得ない。

「東先輩、あと一点ですよ」

「頑張ってください!」

体育館が東先輩の応援一色に染まる。みんなが私の敗北を願っている。
部員の声援がじりじりと私の力を削ぎ取っていく。

「真澄、負けるな」

一瞬、私を応援する声が聞こえた気がした。
この状況でも、まだ私を応援してくれる人がいるの?