「よし、気合い入れてけよ。最後の踏ん張りが大切だからな」
西崎先輩の声がいつもよりも気合が入る。
それもそのはず。大会前、最後の土曜日の練習。
明日はテニス部の大会があるんだもんね。
大会はチームごとに出場する。ダブルスとシングルス二つの四人のチームだ。
学校ごとにチーム数の上限はない。私の学校は部員が多いことで有名みたいで男女ともに三チームずつエントリーしているんだ。
一応私と市川さんも予備メンバーとしてチームに登録はしてある。
男子は人数的に予備はいない。コウは大会出場メンバーだ。
花村さんが教室で私とコウのことを話してから一週間が経った。
あれからコウとは一度も話をすることができてない。
部活ではコウの近くにいるはずなのに、今までで一番遠く離れたところにいる気がする。
大会が近いからかコウはいつも以上に熱心にテニスに取り組んでいる。
そんなコウの姿がかっこいいなって思うけど。
私のそんな思いはコウには伝わらない。
それに部活でも私はいつも一人だ。
「竹口さんがメンバーにいるなんておかしくない? 絶対私の方がテニスが上手い自信あるよ」
陰でこそこそと言われているのも知っている。
「きっと先輩に媚びでも売ったんでしょ。竹口さんあざといから」
そうやって何でも知っているかのように市川さんが答えている。
私は先輩に媚びなんて売ってない。
私自身、どうして選ばれたのか不思議なくらいなのに。
市川さんとだって最初はこんなに仲が悪くなかったのに。
私の中学校生活、大失敗なんだけど。
「ほら、一年も突っ立ってないで練習だ。大会はチームで戦うんだぞ」
西崎先輩が珍しく怒ったような声を出す。
きっと明日の大会で緊張しているんだ。
ピリついた空気が部活全体に漂っている。
私も黙っているわけにはいかないよな。
先輩達の練習相手になるように頑張らなくちゃ。
そう思っていたけど……。
「竹口、返しが甘い。今のはボレーでも返せただろ」
頑張ろうとすればするほど空回りをしちゃう。
普段なら返せるショットが全然返せない。
「これじゃあ練習にならない。竹口、一回代われ」
あーあ、他の一年生に交代させられちゃった。
これじゃあ余計に私が予備メンバー入りしたのが不審がられるよね。
コウの言う通り、私は他の一年生よりもテクニックがあると思ってた。
けど、それは私の思い込みだったのかな。
一年生達が一生懸命先輩に食らいついている。
明日、試合に出ることはないってわかっていてもチームメイトとして頑張っている。
テニスだって上手くない。
部員達からも仲間はずれにされて、頼みのコウもそばにいてくれない……。
今の私はそこまで頑張れないよ。
苦しかった部活の時間がやっと終わった。
外はすっかり日が沈みかけて、オレンジの夕日がちらりと顔を覗かせている。
「明日は八時から会場で受付だ。七時半には駅前に集合するように」
大会前最後の練習が終わり、解散になった。
「お疲れさまです」
私のか細い挨拶に誰も気づかず、静かにグラウンドのコートを後にする。
とぼとぼと一人、帰り道を歩く。
テニスをしていても何も楽しくない。
小学校の頃にテニスを習っていたから、選んだのに。
入ってみたら私はテニスが下手だった。
こんなことならテニス部なんて選ばなきゃよかった。
それにクラスでもみんなから省られちゃうし。
もし私が違う部活を選んでいたら。
そしたらコウとのことも、クラスや部活のみんなとの関係も変わってたのかな。
っていうか、私がテニス部を続ける理由って何だろう?
夕日がゆっくり沈み、夜の世界が訪れる。
遠くでドアが開く音が聞こえ、まるで別な世界への入り口が開いたような気がした。
西崎先輩の声がいつもよりも気合が入る。
それもそのはず。大会前、最後の土曜日の練習。
明日はテニス部の大会があるんだもんね。
大会はチームごとに出場する。ダブルスとシングルス二つの四人のチームだ。
学校ごとにチーム数の上限はない。私の学校は部員が多いことで有名みたいで男女ともに三チームずつエントリーしているんだ。
一応私と市川さんも予備メンバーとしてチームに登録はしてある。
男子は人数的に予備はいない。コウは大会出場メンバーだ。
花村さんが教室で私とコウのことを話してから一週間が経った。
あれからコウとは一度も話をすることができてない。
部活ではコウの近くにいるはずなのに、今までで一番遠く離れたところにいる気がする。
大会が近いからかコウはいつも以上に熱心にテニスに取り組んでいる。
そんなコウの姿がかっこいいなって思うけど。
私のそんな思いはコウには伝わらない。
それに部活でも私はいつも一人だ。
「竹口さんがメンバーにいるなんておかしくない? 絶対私の方がテニスが上手い自信あるよ」
陰でこそこそと言われているのも知っている。
「きっと先輩に媚びでも売ったんでしょ。竹口さんあざといから」
そうやって何でも知っているかのように市川さんが答えている。
私は先輩に媚びなんて売ってない。
私自身、どうして選ばれたのか不思議なくらいなのに。
市川さんとだって最初はこんなに仲が悪くなかったのに。
私の中学校生活、大失敗なんだけど。
「ほら、一年も突っ立ってないで練習だ。大会はチームで戦うんだぞ」
西崎先輩が珍しく怒ったような声を出す。
きっと明日の大会で緊張しているんだ。
ピリついた空気が部活全体に漂っている。
私も黙っているわけにはいかないよな。
先輩達の練習相手になるように頑張らなくちゃ。
そう思っていたけど……。
「竹口、返しが甘い。今のはボレーでも返せただろ」
頑張ろうとすればするほど空回りをしちゃう。
普段なら返せるショットが全然返せない。
「これじゃあ練習にならない。竹口、一回代われ」
あーあ、他の一年生に交代させられちゃった。
これじゃあ余計に私が予備メンバー入りしたのが不審がられるよね。
コウの言う通り、私は他の一年生よりもテクニックがあると思ってた。
けど、それは私の思い込みだったのかな。
一年生達が一生懸命先輩に食らいついている。
明日、試合に出ることはないってわかっていてもチームメイトとして頑張っている。
テニスだって上手くない。
部員達からも仲間はずれにされて、頼みのコウもそばにいてくれない……。
今の私はそこまで頑張れないよ。
苦しかった部活の時間がやっと終わった。
外はすっかり日が沈みかけて、オレンジの夕日がちらりと顔を覗かせている。
「明日は八時から会場で受付だ。七時半には駅前に集合するように」
大会前最後の練習が終わり、解散になった。
「お疲れさまです」
私のか細い挨拶に誰も気づかず、静かにグラウンドのコートを後にする。
とぼとぼと一人、帰り道を歩く。
テニスをしていても何も楽しくない。
小学校の頃にテニスを習っていたから、選んだのに。
入ってみたら私はテニスが下手だった。
こんなことならテニス部なんて選ばなきゃよかった。
それにクラスでもみんなから省られちゃうし。
もし私が違う部活を選んでいたら。
そしたらコウとのことも、クラスや部活のみんなとの関係も変わってたのかな。
っていうか、私がテニス部を続ける理由って何だろう?
夕日がゆっくり沈み、夜の世界が訪れる。
遠くでドアが開く音が聞こえ、まるで別な世界への入り口が開いたような気がした。


