「そろそろ出発するぞ」

西崎先輩が店内でバラバラに座ったテニス部員達に声をかける。

今日はいよいよ練習試合の日。
毎日テニスのことを考えていたら、あっという間にやってきた。

いざ、試合をするとなると緊張してきちゃう。
今までの練習で大丈夫かちょっぴり不安だな。

午前中の練習を終えて、部活のみんなで電車の駅まで向かう。
お昼は最寄り駅の近くにあるハンバーガー屋さんで食べたんだ。

これからいよいよ電車に乗って移動する。
土日も部活とかで普段はほとんど電車に乗らないから、なんか新鮮だな。

テーブル席から立ち上がると、お腹にずっしりとした重みを感じる。
ちょっとハンバーガー食べ過ぎたかも……。

「真澄、よくあのハンバーガー食べ切れたな」

コウがまた悪戯っぽい笑みを浮かべて私を見ている。
私がハンバーガーを食べているところ、コウにしっかり見られてたんだ。

「べ、別に二個くらい食べてもいいでしょ。午前中も練習したし、これから試合だってあるんだから」

「それにしてもあの量。俺には無理だな」

コウってこういうところデリカシーがないよね。

私が食べたのはビッグサイズのハンバーガーと期間限定のアボカドバーガー。
確かに自分でもちょっと多かったかもって思ってるけど!

「私はハンバーガーを食べて元気が出るんだからそれでいいの!」

「さすが、食いしん坊。ハンバーガー女じゃねえか」

そう言ってコウが笑う。

それは不名誉すぎるあだ名なんですけど!
テニス部のみんなにも変なイメージ持たれちゃうじゃん。

「うるさいな、早く行くよ!」

ハンバーガー屋さんを出て、駅のホームに向かう。

ICカードをかざすとピッと音が鳴って改札口のレバーが開く。
何だか異世界へのドアが開いたみたい。

電車に乗って移動するのってちょっとワクワクしてくる。

時刻表の時間ぴったりに電車が到着する。
規則正しく時間は進んで、世界は動いているんだね。

「他のお客さん優先だからな。これもトレーニングだ」

テニス部伝統のルールで試合会場までの移動は立ったままなんだって。
もしも、一人で電車に乗ってたら席に座ってそのまま寝ちゃいそうだな……。

「立ったまま寝るなよ」

隣でコウが悪戯っぽく笑っている。

「寝るわけないでしょ」

頬をプクッと膨らませてコウに言い返す。
でも、おかげで少しリラックスできたかも。

またコウに助けられちゃったな。

初試合。緊張するけど、ワクワクしている自分もいる。
よーし、試合会場まで出発進行だー!

「お互い頑張ろうね、コウ」

「ああ、そうだな」

車輪の動き出す音が聞こえてきた。
私たちを乗せた電車が動き出した。