「……チームとか関係ねぇ。お前は、俺のだから」

 その言葉が落ちた瞬間、小春の心臓が跳ねた。
 静かな食堂の片隅、まるで世界に二人だけが残されたみたいに。

「……っ、な、なにそれ……!」
 顔を真っ赤にしながら、小春は箸を置いた。
「そういうの……食堂で言わないでよ!」

 夏樹は少しだけ目を細めて、悪戯っぽく口角を上げる。
「じゃあ……耳元で言おうか?」
 小春の方に、ぐっと身を寄せる。

「ひゃっ……! な、なつくん!」
 慌てて顔をそらす小春。
 耳まで真っ赤に染まっているのを見て、夏樹は喉の奥で小さく笑った。

「冗談だよ。そんなに焦んな」
「もう……ほんと、意地悪なんだから」
 頬を膨らませる小春に、夏樹は箸を置いて立ち上がる。
「じゃ、午後の授業、遅れんなよ」
 何気ない口調で言いながら、小春の頭に軽く手を置く。

 その瞬間、小春の胸がまたトクンと鳴った。
 ――優しい。
 けれど、少しだけずるい。

「……うん、わかった」
 小春が微笑むと、夏樹も一瞬だけ、目を細めて見つめ返した。

 食堂を出る夏樹の背中を見送りながら、
 小春はそっと自分の頬に手を当てた。
 まだ、さっきの言葉が耳の奥に残っている。

「……ほんと、心臓に悪い」
 そう呟いた声は、小さくて、甘くて、
 誰にも聞こえないくらいの音だった。