「じゃ、秋くん行こうか!」
 凛が食器を片付けながら立ち上がる。
「そうだね。小春ちゃん、またね」
「うん、ありがとう秋くん」
 笑顔で手を振る小春を見て、秋はにこりと笑い返したあと、夏樹にだけ意味ありげな視線を向けて去っていった。

 テーブルには、小春と夏樹だけが残る。
 さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、急に静かになった。
 カチャ、と箸の音が響く。

「……チーム小春、だってよ」
 低い声で夏樹がぼそりと呟く。
 小春はお弁当箱を拭きながら、ふっと笑った。

「嬉しかったけどね。みんな優しいなって思って」
「……あいつら、軽すぎだろ」
「ふふ、なつくん、嫉妬?」
 からかうように言うと、夏樹はラーメンの器を見つめたまま、小さく舌打ちした。

「してねぇよ」
「してるじゃん」
「してねぇっての」
 そう言いながら、夏樹はふいに身を乗り出した。

「……ほら」
 箸の先で、小春の頬に付いた米粒を取ってみせる。

「……ついてた」
 その距離の近さに、小春の心臓が跳ねた。

「……ありがと」
 小春が小さく呟くと、夏樹はどこか誤魔化すように顔をそらす。

「お前さ」
 ぽつりと、夏樹が続けた。
「他のやつにあんまり、そんな顔すんな」
「え?」
「……笑ってんの、可愛いから。あんま見せたくない」

 その言葉に、小春の胸がきゅっと締めつけられた。
 言い返そうとして、でも何も言えなくて。
 ただ、小さく「うん」と頷いた。

 その返事に、夏樹はようやく口の端を上げる。
 不器用なくせに、照れくさそうに。

「……チームとか関係ねぇ。お前は、俺のだから」