ふいに夏樹が歩幅をゆるめて、無言のまま、小春の手を取った。
 大きくてあたたかい手。
 驚いて顔を上げると、夏樹は少しだけ横を向いたまま、ぼそっと呟く。

「……危ないから、繋いでやるよ」

 耳の奥まで真っ赤になって、小春は思わず下を向いた。
「な、なつくん、朝からそういうのは……」
「うるせぇ。落ち着かねぇんだよ」
 言葉とは裏腹に、その指先は優しくて。ぎゅっと繋いだ手の中に、ちゃんと“想い”が伝わってきた。

 そのとき――
「えっ!?なにそれ、手ぇ繋いでんの!?え、まじ!?」

 突然の声に、小春が飛び上がる。
 振り返ると、そこには凛が立っていた。
 にやにやと笑いながら、スマホを構える。

「え、てことはやっと!?やば、朝から青春してる〜!ねぇねぇ、写真撮っていい!?」
「やめろよ!」
 夏樹が慌てて手を放そうとするが、小春が逆にぎゅっと握り返す。

「いいよ、別に」
 照れながらも、にこっと笑う小春。

 その笑顔に夏樹は一瞬言葉を失い、頬をかきながら小さく呟いた。
「……ほんと、強ぇな、お前」

「当然でしょ。だって、私の隣は――なつくんの場所だもん」
 ふっと笑う小春の横顔に、夏樹は視線を逸らせずにいた。

 秋の朝日が二人の影を長く伸ばしていく。
 その影は、もう、並んで離れなかった。