反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 空はすっかり茜色に染まっていた。
 夏樹が、何気なく小春の手を取る。
 その手は、さっきよりもずっとあたたかい。
 小春の胸の奥は、まだドキドキが止まらない。
 そのとき、夏樹が小さく息を吐き、俯いたまま低く呟いた。

「……好きだよ、小春。ずっと、好きだった」

 その言葉に、小春は一瞬、言葉を失った。

 ――やっと、聞けた。ずっと、待っていた言葉。

 胸がぎゅっと締めつけられ、目の前の夏樹がまぶしくて、涙が自然に溢れる。
 でも、その涙は悲しいものじゃない。
 嬉しさと、安心と、ずっと待っていた気持ちが一気にあふれた涙だった。

 小春の頬に残る涙の温もりを、そっと夏樹が手のひらで確かめるように触れる。
「……おまえ、泣きすぎだろ」
 ぶっきらぼうだけど、声の奥には心配と安堵が混ざっていた。

 小春はふっと笑う。
「だって、なつくんが――初めて好きって言った」
 胸の奥で、まだドクドクと鳴る鼓動を感じながら、自然に彼に体を寄せる。

 夏樹は少し間を置き、目を細めながら小さく笑った。
「……うるせぇな。お前ってほんと、俺のことからかうの、うまいよな」

 その言葉に小春はクスリと笑い返す。
 でも心の中は、言葉にしきれないくらいの安堵と幸福でいっぱいだった。
――やっと、また二人の時間が戻ってきたんだ。

 少し照れたように俯きながら、小春を自分のそばに引き寄せるその仕草に、小春の心臓は飛び跳ねた。

 言葉なんてなくても、二人の心が繋がっていることは、確かにわかっていた。でも、実際に言葉にして聞けることが、こんなにも幸せだなんて。

「……ずっと、こうやって一緒にいような」
 夏樹は囁くように呟き、腕の力を少しだけ強くして、そっと小春を引き寄せた。
 そのまま、言葉を待たずに小春の唇に触れ、自然とキスを落とす。

 小春は驚きと幸せで目を見開き、でもすぐに全身でその温もりを受け止めた。

 小春は微笑み、頬を少し赤くしながらも、強く頷いた。
「うん、ずっと一緒にいる――絶対」

 風がふっと吹き、二人の髪と制服の裾を揺らす。
 オレンジ色の光が二人だけを包み、すべてがやさしく輝いて見えた。

 ずっと。ずっとこの日を待っていたんだ。
 もう離さない。もう離れない。
 心の奥で確かに繋がっていることを感じながら、夕暮れの中に立っていた――