反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

「それは……」
 夏樹はそう呟いて俯いた。
 指先がポケットの中でぎゅっと握られているのが見えた。

「勝手にひとりでなんでも決めないでよ!」
 思わず一歩踏み出して、夏樹の胸を軽く押した。
 涙がにじんで視界が滲む。
「私、もう自分のことくらい自分で決められるの。私は、なつくんと一緒にいる。絶対に、ずっと、一緒にいる!」

 声が震えるのに、不思議と心はまっすぐだった。
 頬を伝う涙が、地面に落ちては消える。
 でも、もう隠そうとは思わなかった。
 まっすぐに彼を見上げて、続ける。

「……小春」
 夏樹の目がわずかに見開かれる。
 その瞳の奥で、何かが揺らめいた気がした。
 そして、何かを堪えるように、小さく息を吐く。

「……おまえ、ほんと強ぇな」
 呟きながら、そっと手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でた。
 その手の温もりに、胸の奥まであたたかくなる。
 心臓の鼓動が、まるで互いに伝わるみたいに早くなった。

「離れたって、何も守れないよ」
 小さな声で、でも確かに言葉を紡ぐ。
「隣で、見えるところで――私のこと、守って」

 その一言に、夏樹の肩がわずかに震えた。
 風がふっと吹いて、二人の髪を揺らす。
 オレンジ色の光の中で、夏樹の表情が少しだけ柔らかくなった気がした。

 ほんの一瞬、彼の手が、もう一度私の頭を撫でた。
 その仕草が、答えのように優しくて――胸がきゅっと締めつけられる。