放課後の空は、少しだけオレンジが残っていた。
 部活に向かう生徒たちの声が遠くで響いて、校門のあたりはもう静かだった。

 私は一人で歩いていた。
 家までの道、何度も通ったはずなのに、今日はやけに長く感じる。

 夕風が頬を撫でる。
 鞄の中のスマホが小さく震えたけど、見ないふりをした。
 ――どうせ、なつくんじゃない。

 胸の奥がぎゅっと痛む。
 信じたいって思っても、心は少しずつ弱くなっていく。

(もう、話せないのかな……)

 そんなことを考えながら、信号のない細い道を渡ろうとしたとき――

 「危ねぇっ!!」

 突然、強い腕が私の身体を引き寄せた。
 視界がぐらりと揺れて、すぐ横を自転車が猛スピードで通り過ぎていった。
 風が頬を打って、思わず目をつぶる。

 気づくと、私は夏樹の腕の中にいた。
 胸の奥から、どくん、と大きな音がした。

「な……つ、くん……?」

 息がうまくできなかった。
 彼の腕がまだ、しっかりと私を抱きしめていた。