気づいたら、夏樹が私の名前を呼ぶ声を、もう何日も聞いていなかった。
 夏樹とちゃんと向かい合おう――そう決心したはずなのに、結局まだ話せずにいる。

「ねぇ、小春。最近なつくんと話してなくない?」
 凛の言葉に、心臓がドクンと跳ねた。

「……うん。なんか、忙しいのかも」
 そう答えながら、自分でもその言葉の薄さに気づいていた。
 “忙しい”なんて言葉で誤魔化せるほど、私たちの距離は軽くない。

 クラスの子たちの笑い声の中に、時々まざるひそひそ話。
 “あの二人、もう仲良くないんだって”
 “夏樹が避けてるらしいよ”

 ――全部、聞こえてる。
 けど、聞こえないふりをするしかなかった。

 胸の奥がざわざわして、息をするたびに痛くなる。
 誰も悪くないのに、全部が悪い方向に転がっていく気がして。

 どうして、ただ前みたいに笑い合うだけのことが、こんなに難しいんだろう。