「あんなに雰囲気よかったのにねぇ…」
 凛は小春を見てにやにやと笑った。

「よかったって……そんな……!」
 顔が熱くなるのを感じながら、両手で頬を押さえる。

「もう、ほんとそういうのじゃないってば!」
「ふふっ、小春ってわかりやすいよね〜」

 ふたりで顔を見合わせて笑いあった。
 文化祭の出来事を話していると、あの瞬間のドキドキがまた蘇ってくる。
 夏樹の手の温もり。
 すぐ近くにあった横顔。

 胸の奥が、またトクンと鳴る。

「……なんか、変な感じ」
「なにが?」
「夏樹と普通に話してるのに、昨日のこと思い出すと、心臓が変になる」

 凛がにやりと笑う。
「それはもう、恋の症状だね」
「や、やめてよ、そういうこと言うの!」

 笑いながらも、小春は自分の胸にそっと手を当てた。
 笑い声の奥で、鼓動が少し早くなっているのを自分でも感じる。

 ――どうしよう。
 話せば話すほど、余計に夏樹のことが気になる。