「おはよう」
「おはよう」

 次の日。
 夏樹は、いつもと変わらない顔で私に声をかけた。

 その何気ない「おはよう」に――ホッとしたような、でも少しだけがっかりしたような気持ちになる。

 昨日のこと、夏樹はどう思ってるんだろう。
 あの写真を撮ったとき、すぐそばにあった距離を、私だけが意識してたのかな。

「それでさ――」
 いつも通りのたわいもない会話をしていたそのとき。

「夏樹くん、ちょっと小春かりるよ!」

 突然、凛の声が教室に響いた。
 私の腕をつかんで、ぐいっと廊下へ連れ出す。

「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!」

 凛は頬をぷくっとふくらませて、真剣な顔。

「文化祭のこと、全部話して!」
「え、全部って……?」

「文化祭の! あの“チャイム事件”! 夏樹が小春の腕掴んで連れ出したって、みんな言ってたけど?」
 凛が目を輝かせながら身を乗り出す。

「えっ、うそ、そんな噂になってるの!?」
「なってるなってる。だって、あんなドラマみたいなこと普通ないでしょ!」

 小春は頬を真っ赤にしながら視線を泳がせる。
「ち、違うの! ただ、ちょっと誤解されただけで……!」

 凛はわざとらしく顎に手を当ててうなずいた。
「なるほどねぇ。じゃあ――」
 いたずらっぽく目を細める。
「つまり、それで“付き合った”ってこと、だよね?」

「え?」
「え?」

 二人の声が重なる。

 凛がきょとんとし、小春は慌てて手を振る。
「つ、付き合ってないよ!?」
「え、うそでしょ!? だってあれ、完全に告白イベントじゃん!」
「そんな話してないもん!」
 小春は真っ赤になって、手で顔を隠した。