私は深く息を吸い込んだ。

「……ごめん、秋くん」
 言葉が震える。
「私、秋くんと一緒にチャイムは聞けない。優しさに何度も心惹かれて、救われて、揺らいだのは事実だよ」

 視線を上げると、秋の瞳がまっすぐ私を見ている。
 胸が痛くて、息をするのもやっとだった。

「でも、私、ずっと前から好きな人がいるの。きっとそれは、これからも変わることはないから……だから、ごめん」

 自分の声が教室に響いて、すぐに消えていった。
 秋は一瞬だけ目を伏せ、それから静かに笑った。

「それはわかっていたよ」
 その笑顔は、痛いほど優しい。
「だって短い期間だけど、好きな人のことは、僕もちゃんと見てきたからね。それでも、少しの時間でもいいから、小春の頭の中を僕でいっぱいにしたかった」

 その言葉が胸に刺さる。
 秋の声が震えなかったのは、泣くよりも強い決意の証のように思えた。

「ちゃんと、沢山、考えたよ」
 そう伝えると、秋は嬉しそうに笑った。

「小春が好きだよ。他の誰を好きでも、僕の気持ちは変わらない。でも、重くは捉えないでほしい。これからも一緒に笑いたいんだ。いつだって小春の味方でいたい」

  その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
 思わず目が潤みそうになり、口元が緩む。
 でも同時に、胸の奥に小さな痛みも走った。

(……秋くんは、いつも私のことを見てくれてたんだ)
 それが嬉しくて、感謝でいっぱいになる。

「……ありがとう、秋くん」
 短い言葉だけど、全ての気持ちを込めて。
 秋の瞳が優しく揺れた。