足が重くなる。
 夏樹の背中を見送りながら歩くと、胸の奥がキュッと締めつけられる。
 思わず振り返りたくなるけれど、ぐっとこらえた。

(……行かなきゃ、秋のところに)
 時計をちらりと見る。15時25分。あと5分で教室に着かないと、約束を守れない。
 心臓が速く打つ。
 だけど、夏樹と過ごした時間の楽しさが、頭から離れなかった。

 射的の景品をくれたこと。
 焼きそばを分け合ったこと。
 写真を撮るとき、自然に肩が触れたこと。

 全部が、胸をぎゅっと熱くする。
 でも、私は足を止めるわけにはいかない。

 廊下を曲がると、教室の前に誰もいないことが見えた。
 秋はもう来ているのかもしれない。
 けれど、まだ教室の扉は閉まっていて、静かに空気だけが揺れていた。

(……間に合うかな)
 小春の心は焦る。

 そして、教室の前まで来て立ち止まる。
 深呼吸をひとつ。
 扉の向こうには、秋が待っているはず。

 ――決めなきゃ、私の答えを。

 小さく手を伸ばして扉に触れる。
 背中には、まだ夏樹の温もりの余韻が残っていた。
 胸の奥の痛みと、これから伝えるべき気持ちへの覚悟が、同時に押し寄せていた――