――まったく、どこまで無防備なんだよ。
 射的コーナーの前で、子どもみたいに目を輝かせてる小春を見て、思わずため息が出た。

「やる?」
「うん!見てて!」

 構えたのはいいけど、弾は全部はずれ。
 そのたびに悔しそうに眉を寄せる顔が、なんかおかしくて、気づけば口元が緩んでいた。

「笑った?」
「別に」

 ……あの頃と変わんねぇな。
 昔もこんな顔して、金魚すくいのポイを破って泣いてたっけ。

 仕方なく一発だけ打って、的を落とす。
 落ちたぬいぐるみを拾って、無造作に渡した。

「ほら」
「え、これもらっていいの?」
「いらねぇし。おまえ、こういうの好きだろ」

 笑って抱きしめた瞬間、小春の顔がぱっと明るくなって――
 それだけで、なんかもう胸の奥がくすぐったくなった。

 そのあと焼きそばを食いに行こうと言い出して、
 嬉しそうにソースまみれの顔で笑ってるのを見て、
 思わず指で拭ってしまった。

「……ほら」
 触れた指先に、体温が残って。
 小春が固まるのが分かって、俺の方が動揺した。

 ……バカ。なんで意識してんだよ。
 目を逸らして、いつものように言葉でごまかす。
「行くぞ」

 離した手が、妙に寂しく感じた。

 ベンチに座って空を見上げる小春を、横目で見た。
 風に髪が揺れて、目を細めてる。
 
 その横顔を見ながら、昔、一緒に夏祭りに行った時のことを思い出していた。
 あの夏の夜、小春を見失って、泣きそうになりながら探したこと。
 見つけた瞬間のあの安心と、怖さ。
 あの時、胸の奥で何かが変わった気がする。

 ――小春が、いなくなるのが怖い。

 あれから何年経っても、その気持ちは消えてねぇ。

「……おまえ、ぼーっとしてどうしたんだ?」
「ううん、なんでもない」

 その笑顔を見た瞬間、また胸が締めつけられる。
 小春の“なんでもない”は、だいたい嘘だって知っている。