教室のざわめきの中で、耳に入ってきた。
「…… ジンクス、知ってる?」

秋の声。
そして、それに微笑む小春の姿。

胸の奥が、ずきりと痛んだ。

(なんだよ、それ……)

ジンクスなんてくだらない。
チャイムを聞いたぐらいで結ばれる?
そんなの、馬鹿げてる。

そう思おうとしたのに――小春が少し赤くなった顔で秋を見上げているのが目に焼き付いて、頭から離れない。

(……お前は、俺といるって言えよ)

心の中で叫んでも、声にならなかった。
ただ、机を持つ手に力が入りすぎて、指先が白くなっていた。

気づけば、小春の方をまた見てしまう。
秋の隣で小さく笑うその顔に、胸の奥がざわざわとかき乱されていく。

「……っ」
思わず舌打ちをしそうになり、唇を噛んで飲み込む。

(……俺は、何やってんだ)
言葉にならない気持ちが渦を巻きながら、夏樹の中に積もっていった。

「一緒に回るか?」

 目立つことはしない――そう決めていたのに、
気づいたら小春を誘っていた。
 どうしても、自分の隣に小春がいてほしいと思ってしまった。

 廊下の空気は静かで、誰もいない。
 小春の肩がほんの少し自分に近づくのを感じるだけで、胸がざわつく。
 無言で歩いていた時とは違う、軽やかなその仕草――少し笑った表情――
 思わず目を細めてしまう。

 「……しょうがねーな」
 ぶっきらぼうに呟いたつもりだけど、口元は自然と緩む。
 嬉しい気持ちが、伝わってはいないだろうか。
 この想いが、バレてはいないだろうか。

 小春の目が少しだけ輝いて、すぐに頬を赤くしているのを見て――
 胸の奥が、くすぐったくて、熱くなる。
 俺も、楽しみだと思った。
 文化祭、これから一緒に回れる。
 それだけで、心が少し弾む。

 今はただ、この空間も、時間も、ときめきも、
全部小春と共有したいと思った。