「答え、聞いてもいい?」
 秋の声が、静かな教室にすっと落ちる。
 心臓が大きく跳ねて、息が止まりそうになる。

 ――でも、答えられない。
 秋のまっすぐな瞳を前にすると、言葉が喉で絡まってしまう。
 その視線の強さに押されながらも、どうしても夏樹の背中が頭から離れなかった。

「わ、私……」
 しぼり出すように声を出した瞬間、秋がふっと笑った。
 柔らかく、どこまでも優しい笑顔で。

「――なんてね。わかってるよ」
 驚いて顔を上げると、秋は笑って言った。
「答えは、今じゃなくていいよ」

 さらりとした言い方なのに、胸の奥にすとんと落ちてくる。
 追い詰められることもなく、急かされることもなく――ただ待ってくれる余裕。
 その優しさが、かえって心を苦しくさせた。

「……秋くん」
 名前を呼ぶのがやっとで、それ以上の言葉は出てこなかった。

 その瞬間、少し離れたところで机を運んでいた夏樹の肩がぴくりと揺れた。
 けれど、やっぱりこちらを見ようとはしない。
 ただ黙々と片付けを続ける後ろ姿が、どうしようもなく気になって――

 胸の奥は、秋の優しい笑顔と夏樹の無言の背中、その両方に締めつけられていた。