教室はいつもより活気に満ちていた。
 ダンボールで仕切りを作る子、机を運ぶ子、カラフルな飾りを広げる子たちの笑い声――
 その真ん中で、私は小さく息をつきながら画用紙にメニューを書き込んでいた。

「小春、ちょっとこっち手伝ってくれる?」
 隣に立つ秋が、器用にカップのイラストを描きながら声をかける。
「うん、わかった」
 私は照れくさく笑いながら、彼の隣でペンを握る。
 手元を覗き込む秋の距離が、少し近すぎて胸がきゅっとなる。

 ――でもその視線の端に、夏樹の影を感じた。
 教室の隅で机を運ぶ彼は、普段より無愛想に黙々と作業している。
 ちらりとこちらを見て、眉をひそめるその顔は、なんだか不機嫌そうだ。

「……お腹でも痛いのかな」
 そんな思いが頭をよぎる。

 秋が楽しげに笑う。
「こっちもお願いね、小春」
「え、はい!」
 無意識に秋の言葉に反応してしまう。

 あれ?今なんの話してたっけ…
 メモを取る内容を思い出していた。
 ――そのとき、横から夏樹がすっと手を伸ばし、私の作業していたペンを取って別の紙にメモを取った。

「……聞いてんのかよ」
 彼の声は低く、ぶっきらぼう。
 でも、言葉の端にほんのわずかな優しさが混じっているのを感じた。

 夏樹のことを考えていた…なんて、言えなかった。

「ごめん!ありがとう」
「……おぅ」

 夏樹は照れくさそうに頭を掻いた。

 ただ作業をしているだけなのに、夏樹の無言の行動と秋の笑顔に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 文化祭の準備が、いつも以上に特別に感じられた。