「……くそっ」
 机に伏せてそっぽを向いてしまった夏樹に、私は笑いをこらえながら、そっとペンを置いた。

 ――ああ、この瞬間も、なんだか特別に感じる。
 夏樹のぶっきらぼうさと拗ね顔が、いつもより近くて、ずっと胸に残っていた。 

「……私、数学苦手だから、すぐにはできないかも」
 小さく呟くと、胸の奥がちくりと熱くなる。

「でも……」
 少し息をつき、目をそらしながら続けた。
「今日、なつくんが教えてくれるって言ってくれたから……嬉しかった」

 言葉にすると、心がほんの少し軽くなる気がした。

「やっぱり……教えてほしいな」
 最後は小さく、でも真剣に。
 手が少し震えたけれど、この気持ちは素直に伝えたかった。

 その言葉に、夏樹の肩がピクリと揺れた。
 やっと視線をこちらに向けると、眉を少しひそめ、口元だけがわずかに緩む。
 ――普段は見せない、少し嬉しそうな表情。

「……ったく、しょうがねーな」
 小さく呟いて、ノートを指で軽く叩いた。
 声はぶっきらぼうだけど、どこか優しさが混ざっている。

 思わず胸がじんわり熱くなる。
 彼の拗ねた態度も、ツンとした声も、全部――
 愛おしく感じた。