反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 次の日の放課後。
 約束通り、私は教室に残っていた。
 窓から差し込む夕陽が机に伸びて、教室は昼間よりも静かで、少しだけ特別な空気が漂っている。

「……来たな」
 ドアを開けて入ってきた夏樹は、いつものように不機嫌そうな顔。
 でも、その手にはしっかりと数学の教科書とノートが抱えられていた。

「ちゃんと持ってきたんだ」
 思わず笑うと、夏樹はムッと眉を寄せる。

「当たり前だろ。……ほら、ノート出せ」

 言われるままにノートを広げると、夏樹は私の隣に腰を下ろした。
 肩が触れそうなくらい近くて、ドキンと心臓が跳ねる。

「ここの式な、まずはこっから整理すんだよ」
 夏樹の低い声が耳に落ちるたびに、胸がじんわり熱くなる。
 でも――

「ちょ、違ぇよ! なんでそうなんだよ!」
「え、えぇ!? だって……」

 夏樹は机を指でトントン叩きながら、ぶっきらぼうに私の解き方を否定してくる。
 私だって真剣にやってるのに、その言い方はちょっとひどい。

「もう! なつくんの教え方、全然優しくない!」
「はぁ!? ちゃんと説明してんだろ!」
「全然わかんないもん!」
「お前がトロいだけだ!」

 売り言葉に買い言葉。
 気づけばまた、口げんかになっていた。

 ――その瞬間。

「……楽しそうだね」

 突然、教室のドアが開いた。
 振り向けば、夕陽を背にした秋が立っていた。
 その笑顔は明るくて、空気を一気に変えてしまう。