反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 静かな廊下に、私たちの足音だけが響く。
 夏樹は相変わらず無言で、でも繋いだ手は頑なに離してくれなかった。

「……かっこ悪いな」
 さっきの言葉が頭から離れない。
 どうしてあんなことを言ったんだろう。
 でも、問いただす勇気なんて私にはなかった。

 繋いだ手の温かさが、どんどん心臓まで広がっていく。
 胸の奥が熱くて、息が詰まりそうだ。

 夏樹はずっと前を向いたまま。
 その横顔は相変わらずぶっきらぼうで、何を考えているのか分からない。

(……やっぱり、なつくんはずるい)
 突き放すようなことを言うくせに、手は離さない。
 その矛盾に、私の心は振り回されてばかりだ。

 でも――もし、今この手が離れてしまったら。
 想像しただけで、どうしようもなく寂しくなる自分がいる。

「なつくん」
 小さく名前を呼んでみる。

「……んだよ」
 そっけない声。
 けれど、その声がすぐ隣から返ってくるだけで、少し安心する。

「……ううん、なんでもない」
 言えなかった。
 本当は聞きたいことが山ほどあるのに。

 結局私は、また夏樹の背中を追いかけるしかできなかった。
 ――それでも。
 握られた手のぬくもりだけは、最後まで強く残っていた。