その日、放課後の教室で。
 なんだかいつもよりピリピリとした雰囲気の夏樹がいた。

「ねぇ、なつくん。今日の数学、わからなかったんだけど、教えて」

 笑顔で頼んでみたけど、夏樹はぶっきらぼうに腕を組み、そっぽを向く。

「知らねぇ。あいつに聞けば?」

 ――あいつって?

「サン王子。小春もきゃーかっこいいって思ってんだろ。ああいうのがタイプかよ」

 その言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
 ――な、なんで……?

 私が幼い頃から思い続けてきた、この気持ち――夏樹にはひとつも伝わっていなかった。
 それが悔しくて、恥ずかしくて、なんだか涙が出そうになる。

 気づいたら、心にもない言葉が口をついて出ていた。

「無愛想でぐちぐちうるさいどっかの誰かさんより、ずっとかっこいいね」

 ――思わず言った言葉に、自分でもびっくりしていた。

 その瞬間、夏樹と目が合う。
 すぐに逸らしたけれど、胸の奥はぎゅっと熱くなって、心臓がバクバクしていた。

 売り言葉に買い言葉になってしまった。
  ――夏樹は、この気持ちの奥にある私の本当の思いを、まだ何もわかっていない。