小春が秋のシュートを見て、にこにこしている。
 ――なんで、あいつは楽しそうに見てんだ。

 不意に、小春がこっちに目を向けた気がした。
「……なに見てんだよ」
 ぶっきらぼうに言ったつもりだった。だが、心臓が少しだけ跳ねる。あいつの瞳に、俺の視線が刺さった気がして――慌ててそっぽを向く。

 鼻を鳴らしながら、少し拗ねたように吐き捨てる。
「……ったく。秋なんか見て楽しいのかよ」
 俺はボールを拾いに走り去る。心の中で、焦りと嫉妬がざわついていた。

 遠くで秋が小春と話しているのが見える。爽やかな笑顔、汗に濡れた額――全部が視界に入る。

 その視線も、その笑顔も、俺だけのものだったのに。
 ――絶対、俺だけの笑顔でいさせたい。
 ――誰にも渡したくない。

 小春の視線を追いながら、ピリピリした気配を放つ自分に気づく。小春に気づかれないように、必死でぶっきらぼうを装った。

 また小春が、仲間はずれにされそうになったらどうしてくれるんだ。
 俺が小春に冷たくしてしている意味がなくなるじゃないか。

 ――絶対に、あいつを傷つけさせない。
 誰よりも、小春を守るのは俺だ。
 その覚悟を胸に、夏樹はピリピリした視線を秋に向けつつ、ざわめきの中でひっそりと立ち尽くしていた。