「え、小春のこと……?」
「なんか、特別っぽくない?」
 女子達が呟く声が聞こえた。

「……おい、秋」
 不意に夏樹の低い声が割り込んできた。
 振り返ると、いつの間にかすぐ後ろまで来ていて、ボールを片手にじっと秋を睨んでいる。

「遊んでる暇あんなら、さっさと次やれよ」
 ぶっきらぼうな言葉と鋭い目つき。
 その圧に押されたのか、クラスのざわめきがすっと引いていく。

「……夏樹くん、相変わらず厳しいなぁ」
 秋は苦笑しながら頭をかいた。

 けれど、小春の腕を軽く引いて人の視線から外すようにした夏樹の仕草に――わずかな優しさを感じて、胸がざわめいた。

「あ、あの、なつくん……」
 何か言おうとすると、夏樹はふいに冷たい目を向ける。

「……余計なこと、気にすんな」
 突き放すように短くそう言い捨てて、ボールを抱えたまま人混みの中に戻っていった。

 残された小春は、胸の奥に生まれた温もりと切なさの両方を抱えたまま、言葉を失って立ち尽くしていた。