チャイムが鳴る五分前。いつものように小春は、夏樹と並んで校門をくぐった。
 
「なつくん、またネクタイ曲がってるよ」
 手を伸ばして直そうとすると、夏樹はすぐに顔をそむける。

「……触んな。いいから放っとけ」
「えー、せっかく直してあげようと思ったのに」

 ぶっきらぼうな言葉と、少し乱れた制服姿。

「いいから。ていうか、なつくんって呼ぶな」
「だって、なつくんはなつくんでしょ!」

 幼い頃の面影はあるけれど、整った顔に少し大人びたその瞳に見つめられるといつだって少し胸がざわつく。
 クラスの女子たちがきゃあきゃあと騒ぐのも無理はない。

「小春、はやくしろ。遅刻すんぞ」
「わ、待ってよ!」

 長い足でずんずん歩いていく夏樹を追いかけながら、小春はため息をついた。
 あんなに優しくて、王子様みたいだったのに。
 どうして、こんなに素直じゃなくなっちゃったんだろう。