昨日の嵐が嘘みたいに、空は澄み渡っていた。
 雲ひとつない青空の下、風が頬をくすぐる。

「おーい、こっちこっち!」
 凛が手を振って、嬉しそうに駆け寄ってくる。
 その隣には、秋が少し照れたように笑いながら立っていた。

「そういえばさ」
 私は、コロッケを頬張る凛を見ながらふと口を開いた。
「秋くんって、凛のこと呼び捨てにするようになったよね?」

「え、そ、そうかなぁ?」
 頬を赤くしながら、凛は慌てて笑う。
「わ、わたしはもういいの! 恋愛とか、そういうの、しばらくいい!」

「え、なんで?」
 秋は素で驚いたように首をかしげる。
「僕、凛のこと、いいなって思ってるよ」

「なっ……!? な、何言ってんのよ!!」
 顔を真っ赤にして、凛が秋を軽く叩く。
 そんな2人のやりとりに、思わず笑みがこぼれた。

「楽しそうだな」
 隣で夏樹がぽつりと呟いた。
 いつものぶっきらぼうな声だけど、そこには優しさが滲んでいる。
 私も、そっと笑って答えた。

「……うん。なんか、こうしていられるの、嬉しいね」

 風が木々を揺らして、光が差し込む。
 昨日までの不安や痛みが、少しずつ遠ざかっていく。

 ――私たちは、きっと道を間違える。
 すれ違って、傷つけて、それでもまた出合い直す。

 どんなに遠回りしても、私はきっと――
 夏樹の隣にいる。

 そう思えた瞬間、彼がそっと私の手を握った。
 その温もりが、何よりも確かな「答え」だった。

「なつくん、私もコロッケ食べたい」
「……うるせぇ。もう手、離さねぇからな」
 小さく呟く声に、思わず胸が熱くなる。

「じゃあ食べさせて!」

 反抗期のくせに不器用で、照れ屋で、でも誰よりも優しい人。
 ――そんな七瀬くんに、溺愛される方法。
 それは、ただまっすぐに、彼を信じること。

「……小春、大好きだ」
「私も。なつくん、だーいすき!」

青空の下、私たちの笑い声がいつまでも響いていた。