反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 雨の音と雷鳴はまだ遠くで響いていたけれど、抱きしめられた温もりに包まれて、怖さは少しずつ消えていく。

「……小春、行こう」
 夏樹の声は低く、でも優しく響いた。
 彼は手を差し出す。
 濡れた指先が私の手を包み込んだ。

 ぎゅっと握り返すと、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 この手をずっと、離さないでいたい。

 暗い廊下を、懐中電灯の揺れる光を頼りに進む。

 光が揺れるたび、夏樹の横顔がちらりと見えた。
 濡れた髪が少し張り付いた頬、真剣な目――どれも、私のためだけに向けられているようで、胸が高鳴る。

 小さく震える小春の手を、夏樹は時折ぎゅっと握り返す。

「大丈夫。俺がいる」
 その言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。
 でも、今度は泣くのを恐れない。
 夏樹が傍にいるから、どんな感情も受け止めてもらえると思えた。

 廊下の先、部屋の明かりがついていく。
 まだ雨は強く降っているけれど、心の中の嵐は穏やかになった。
 握った手の温もりが、私たちを繋ぎ止めてくれる。

 歩く足音だけが、静かな夜に響く。
 その一歩一歩が、二人の距離を、心を、少しずつ元に戻していくようだった。