反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

「お母さんが言ったから、私、なつくんを好きになったんじゃないよ!」

 涙で濡れた頬をぬぐいながら、小春は叫ぶように言う。

「なつくんは、私だけの王子様でいなきゃだめなの!」

 その言葉を叫ぶように言い放った瞬間、夏樹は迷うことなく小春を強く引き寄せてキスをした。

 小春は一瞬息を止め、そしてゆっくりと、唇を重ねた。
 暗く、雨と雷の音に包まれた廊下で、二人だけの時間が静かに流れる。

 キスは優しく、でも確かに心のすれ違いを埋める力があった。
 互いに触れ合う温もりと呼吸に、緊張も不安も溶けていく。
 離れたくない、今この瞬間をずっと抱きしめていたい――そう思いながら、私たちは静かに唇を重ね続けた。

 雨に濡れた服が触れ合うけれど、そんなことはどうでもいい。

 唇が離れて、小春はそのまま夏樹には引き寄せられて抱きしめられていた。
 胸に押し付けられた小春の体から、震えと涙が伝わってくる。

「……小春」
 低く響く声。耳元で囁く声。
「もう離れない。離さない、絶対に」

 その言葉に、胸がぎゅっと熱くなる。

 小春は力なく肩を預けながらも、心の奥底で、ようやく安心感が広がっていくのを感じた。

「大好きだ」

 雨の音も雷鳴も、停電の暗闇も、もう怖くない。
 ――だって、夏樹がそばにいて、私を抱きしめてくれているのだから。

 その強さとぬくもりに、長い間抑えてきた涙が溢れ、肩越しに嗚咽が漏れる。

 でも、それすらも包み込むように、夏樹はゆっくりと小春の背中をさすった。

 暗闇の廊下に、二人だけの世界が静かに広がっていった。