反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 小春は自然としゃがみ込み、膝を抱えて体を縮めた。

 雨音と雷が、まるで心の奥まで打ち付けてくるようで、涙が滲む。

 息を整えようとするけれど、心臓が早鐘のように打ち、指先まで冷たくなる。

 そのとき、揺れる懐中電灯の光が差し込んだ。

「……小春」

 その声を聞いた瞬間、胸の奥がほどけたように緊張が緩む。
 懐中電灯の光の中、濡れた前髪をかき上げながら、夏樹が立っていた。

 暗闇の中でも、確かに私を見ている。
 心の奥の震えが、少しだけ和らぐ。
 手を伸ばしてくれるその存在が、光に見えた――

「な、なつくん……?」
 震える声で名前を呼ぶと、彼は少しだけ息を整えて言った。

「探してくれたの?」

 夏樹は短くうなずいた。
「小春、雷嫌いだろ。部屋に行ったら、いなくて……凛たちが、ひとりで出たって言うから」

 言葉の途中で、再び雷が鳴り響く。
 思わず体がびくりと跳ねた。
 その瞬間、夏樹の手が迷いなく伸びて、私の肩を包み込む。

「大丈夫。俺がいる」
 低く、でも確かな声。

 その一言だけで、張りつめていたものが崩れた。
 膝に力が入らず、思わずしゃがみ込む私の隣に、夏樹も同じように腰を下ろす。

「……遅くなってごめん。怖かったよな」
 懐中電灯の光が彼の横顔を照らす。
 濡れた髪、頬を伝う雨の雫、真剣な瞳――全部がやけに近くて、胸が苦しくなる。

「なんで……そんなにしてまで来てくれたの」
 かすれた声で問うと、夏樹はほんの少しだけ目を細めた。

「ほっとけるわけねぇだろ」
 その言葉が、雷鳴よりも深く心に響いた。