観光客で賑わう通りの向こう、小春が小さく笑っていた。

 石段で足を滑らせそうになった瞬間、秋がすっと手を伸ばし、小春の腕を支えた。
 その自然な流れが、胸の奥をきゅっと締めつける。

(……よかった。ケガ、しなくて)

 そう思う一方で、喉の奥が焼けるように痛い。
 当たり前のように隣にいられるのは、もう俺じゃないんだと――
 そんな現実を、まざまざと突きつけられた気がした。

 少し離れた場所で、凛や他の女子たちと笑い合う小春。
 「これ、美味しいね!」
 手に持った串焼きを頬張って、子どもみたいに嬉しそうに目を細める。
 その笑顔を見て、胸が熱くなる。
 どんなときでも、小春が笑ってると安心する。
 それはずっと昔から変わらない。

 ――やっぱり、俺は小春が好きなんだ。
 それだけは、どうしても変えられない。

 けれど、あの夜から、彼女の目の奥には俺を見るたびに影が差す。
 無理して笑ってるのがわかる。
 俺のせいで、小春は苦しんでる。

(俺が、いなきゃ……小春はもっと笑えるのかもしれない)

 そんな考えが頭をかすめるたびに、心臓が強く脈打つ。
 好きなのに、離れたほうがいい――
 そんな矛盾を抱えたまま、ただ遠くからその笑顔を見つめるしかできなかった。

 秋の隣で笑う小春の姿が、夕日で柔らかく照らされている。
 眩しくて、目を逸らした。
 だけど、何度逸らしても、視線はまた彼女を追ってしまう。

 その瞬間、はっきりと悟った。
 ――俺の世界には、小春しかいないんだ。