「私ね……なつくんのお母さんと約束したの」

「約束……?」

「お母さんが亡くなる前に言ってたの。“夏樹をよろしくね。小春ちゃんは夏樹のお姫様だから、ずっとそばにいてあげてね”って」

 夏樹の目が見開かれる。
 風が吹いて、提灯の灯りがふっと揺れた。

「……母さんとの約束は、もう時効だよ」
 静かに、でも確かにそう言って、夏樹は私の頭にそっと手を置いた。

 その手のぬくもりに、また涙がこぼれそうになる。
 ――時効、なんかじゃないよ。
 だって、あの日からずっと、私は。

「重い荷物背負わせて悪かったな」

 そう言って夏樹は小春の頭を撫でて背を向けた。
 滲んでいく視界の中で。
 離れていく背中を、ただ見守るしかなかった。