「俺、ほんとはさ……小春の隣にいたいんだ」
 目を伏せたまま、ゆっくり続ける。
「でも、小春、俺を見ると辛いだろ」
 そう言う夏樹は悲しそうに見えた。

「高松さんを気遣う夏樹は優しくていい先輩だと思う。でも、私は、私だけを見て欲しいって思っちゃうの。そんな自分が最低で大嫌い。こんな私を好きでいてなんて言えないよ」

 言葉を吐き出すと、胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息が止まりそうになった。

 夏樹はしばらく黙ったまま、手を握ったり離したりしている。
 その手のぬくもりが、心臓を強く刺激するのに、素直に触れられない自分がいる。
 ――こんなにも近くにいるのに、どうして心はすれ違うんだろう。

 遠くで凛や秋の声がかすかに聞こえる。
 でも、その声すら届かないくらい、私たちの世界は2人だけのものになっていた。

「……それでも俺は、小春が好きだよ。」
 久しぶりに夏樹の口から聞いた、好きの2文字。
 前はその言葉に心躍らせていたのに、今ではこんなにも胸が苦しい。

「なんで俺たち、こうなっちまったんだろうな」
 夏樹の声は小さく、夜風にかき消されそうだった。
「やっと、両思いになれたのに……」

 その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
 ――そう、私もそう思っていた。
 やっと気持ちを通じ合わせたのに、こんなにも心が痛い。 提灯の揺れる光に、私の涙がほんの少し反射して揺れた。