そのとき、誰かが私の腕を掴んだ。

「……もう黙って見てられない」
 低く震える声。
 振り向くと、夏樹が立っていた。

 驚く私の手を引いて、秋たちの輪から離れる。
 誰もいない中庭の奥――提灯の光が届かない、静かな場所。

「なつくん……」

 夏樹は少しのあいだ黙っていた。
 そして、ゆっくりと口を開く。

「苦しめてごめん。悲しませてごめん」
 絞り出すような声だった。
「明日、グループ行動だろ。俺がいることで辛いなら……先生に体調悪いとか言って、部屋で休ませてもらう。だから、楽しんできていいよ」

 胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
 どうしてそんな言い方をするの。

「……なつくんは、それでいいの?」

 問いかけると、夏樹はかすかに笑った。
 でもその笑顔は、痛いほど苦しかった。