廊下でふと、夏樹に話しかける女子たちの会話が耳に入ってきた。

「ねぇ、夏樹くんに彼女っているの?」
「桜田さんはどうなのかな?」

 その答えはすぐに返ってきた。

「いないし、いらない。あいつはなんでもないから」

 思わず足が止まる。
 わかっていたはずなのに――
 心にぽっかり穴が開いたような、少し重たい気持ちが広がる。

(やっぱり……私じゃだめなのかな……)

 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
 夏樹のそばにいたいなら、もっと……
 もっと彼に愛される女性にならなきゃ。

 小春は拳を軽く握りしめ、決意するように自分に言い聞かせた。