その日の昼、私たちは3人で食堂にいた。
 そこにはいつもいる夏樹の姿はない。
 自分から距離を置こうと言ったのに、なんだかそれがとても悲しく感じた。

 昨日の出来事を、凛に説明していた。

「えー!そんなことがあったの!?私もぶん殴ってやろうか、夏樹くんもその女も!」

 凛は顔を真っ赤にして、まるで槍を振りかざすように言う。
 その言葉だけで、胸の奥がふっと軽くなる。
 私のために怒ってくれる人がいる――
 それだけで、少し救われた気持ちになった。

「でも、どうする?もう少しで修学旅行だよね……私たち、4人でグループ組んじゃったじゃん」

 凛は眉をひそめる。
 声は冗談混じりだけど、その目は真剣だ。

 私は箸を持つ手が、一瞬止まった。
 そうだ、グループ決めのときに私たち4人で行くって約束した。
 夏樹も、秋も、凛も。
 ――その約束が、こんな風にギクシャクするなんて思わなかった。

 秋が静かにコップを持ち上げ、落ち着いた声で言った。

「何かを変える必要はないと思うよ。だけど、小春が嫌な思いをするなら、考えよう。無理に一緒にいなきゃいけないなんてことはないから」

「そ、そうだね」
 私は小さく頷く。
 秋の言葉は優しくて、胸のもやが少しずつ溶けていくようだった。