小春が少し気持ちを落ち着けていると、廊下の方から元気な声が聞こえてきた。

「おはよー!おっ、もう来てるじゃん!」
 振り向くと、凛がにこにこと笑いながら教室に入ってきた。
 ふたりの様子を見て、ぱっと表情を変え、少し首をかしげる。

「……どうしたの?なんか、二人とも、変な顔してるけど」
 凛の声は好奇心いっぱいで、ほんの少し心配も混ざっている。

 小春と秋は、目が合うと咄嗟に口をつぐむ。
 夏樹が教室の後ろで見ていることもあり、気まずさが一層増す。

 凛は二人の静けさを見て、少し考え込むように眉を寄せた後、目をぱっと机に視線を落とす。そして目を丸くした。

「わー!なにこのおにぎりとパン!すごい量!」
 思わず声が大きくなってしまい、教室の空気が一瞬ぱっと明るくなる。

 秋は苦笑しながら、軽く肩をすくめる。
「凛も食べる?買ってきてるから、みんなで分けようか」

 凛は目を輝かせて頷く。
「え、マジで!?いいの?」

 小春は少し照れくさそうに笑った。
「私はサンドイッチもらったの」

「じゃあ、私はツナマヨおにぎり〜!」
 凛は手を伸ばし、嬉しそうに受け取る。
 その瞬間、教室の空気がまた少し和らいだ気がした。

 窓から差し込む朝日が、三人の笑顔を淡く照らす。
 小春の胸のもやもやはまだ消えないけれど、少しずつ軽くなっていくのを感じた。