昼休みの教室。小春はノートを広げ、昨日の宿題を復習していた。
 ふざけた笑い声が背後から響く。

「おーい、桜田!昨日の答え、写させてくれよ!」
「え〜、間違えちゃうかもよ?」

 クラスの男子たちがからかうように言うたび、小春は思わず眉をひそめる。
 胸の奥がぎゅっと締めつけられるような、あの気まずさ。

 そのとき――

「……放っとけ」

 低く、ぶっきらぼうな声。
 振り返ると、夏樹が立っていた。
 冷たく突き放すように言うだけかと思いきや、すっと前に出て、男子たちの間に立つ。

「お前らそろそろ自分でやれよ。俺が貸してやるから、こいつに絡むな」

 男子たちは一瞬たじろぎ、すぐに「わかった」と引き下がる。
 夏樹の横顔はいつもの氷の王子様そのものなのに、行動は私を守るための優しさで満ちていた。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……冷たいのに、こうして守ってくれる……)

 男子たちが去ったあと、夏樹は何事もなかったように席に戻り、鉛筆を持つ手元に集中する。
 でもその背中は、小春に安心感を残したままだった。

 教室を出た廊下で、男子たちと肩を組み、ふざけあう夏樹。
 無邪気に笑うその顔は、教室で見せた冷たい横顔とはまるで別人だった。

 小春は胸の奥でじんわりと温かいものを感じながら、ついその背中を追ってしまった。

(ずるい……なんでこんなに胸がざわつくんだろう)