店の前の駐車場は、夜風が少し冷たかった。
 街灯の光が白く滲んで、静けさだけが残っている。

 頬の痛みより、胸の奥の痛みの方がずっと強かった。
 
 1人で夜ご飯を食べることの寂しさが、俺には十分わかっていたから高松を誘った。でも、軽率だった。

 あの瞬間、小春の涙が見えた気がして、息が詰まった。

「……夏樹先輩」
 背後からかすかな声。振り返ると、亜美が立っていた。
 目を潤ませたまま、まっすぐ俺を見上げてくる。

「私……夏樹先輩のことが好きなんです」
 その声は震えていても、真剣だった。
「私じゃ、だめですか?」

 胸の奥がずきんと鳴った。
 彼女を傷つけたくなくて、言葉を選んだつもりなのに、どれも上手く出てこない。

 少しの沈黙のあと、俺は息を吐いて言った。

「……高松じゃ、だめとか、そういうことじゃない」

 視線を落とし、ゆっくりと続ける。

「俺が――小春じゃなきゃ、だめなんだ」

 自分でも驚くくらい、はっきりしていた。
 言葉にした瞬間、心の中のもやが全部晴れていくようだった。

「真っすぐで、芯が強くて。誰よりも人のことを考えて、でも自分のことは後回しで。おっちょこちょいで、よく転びそうになって……見てられないんだよ。ほっとけなくて、気づいたら目で追ってる」

 言葉が止まらなくなった。
「バカみたいに頑張って、泣くの我慢して笑うところも、全部。……そういう小春が、好きなんだ」

 風が吹いて、夜の空気が胸に沁みる。

 この気持ちを、全部。小春に伝えればよかった。
 恥ずかしがったり、強がったりせずに、全て曝け出せばよかったと思う。