反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 夜風が冷たくて、泣きそうな心を少しだけ落ち着かせてくれる。
 でも、胸の奥のざらつきは消えなかった。

 歩きながら、携帯の画面をぼんやりと見つめる。
 ――夏樹。
 呼び出し履歴に並ぶ名前が、やけに遠く感じた。

「……ほんと、バカだな、私」

 俯いてつぶやいたその時、背後から声がした。

「小春」

 振り向くと、そこに秋が立っていた。
 柔らかな表情だけど、どこか怒っているようにも見える。

「……秋くん」
「ご飯、途中で出てきたでしょ。ごめん。同じファミレスで友達とご飯食べてて、ちょうど見えちゃった」

 小春はうつむいて、手をぎゅっと握る。
「……見てたんだ。恥ずかしいね、あんなの」

「恥ずかしくなんかないよ」
 秋は少し歩み寄って、優しく言った。
「でも、小春はさ……我慢しすぎ。嫌なこと、ちゃんと言わないと」

「でも……夏樹に言ったって、困らせるだけだよ」
「困らせていいんだよ」
 秋の声が少し強くなる。
「何が嫌で、何がつらいのか。ちゃんと伝えなきゃ、夏樹くんはきっと気づかないよ。あの人、鈍感そうだしね」

 小春は、思わず笑ってしまった。
 秋の言葉が心に沁みる。

「……ねぇ、小春。僕も一緒に行くから」
「え?」
「ちゃんと話してこよう。逃げないで」

 秋がそう言ってくれて、小春は小さく頷いた。
 ――そうだ、逃げちゃだめだ。
 自分の気持ちをちゃんと伝えよう。

 二人でファミレスの方向に歩き出す。
 けれど、その時だった。