「先輩、今日も手伝いますね」
 亜美は笑顔を浮かべながら、掃除用具を手に取る。

 夏樹は少し眉をひそめ、淡々と声をかける。
「……もう帰っていいぞ。家で親が待ってるんじゃないのか?」

 亜美は肩をすくめて笑った。
「大丈夫です。家には誰もいませんから。母は、他の男に夢中で……」
 言葉の端に、ほんの少しだけ孤独な響きが混じる。

 夏樹はふっと息をつき、少し肩をすくめた。
「そうか……じゃあ、早く帰って休んでいいぞ」
声は冷静だけど、目にはわずかに気遣いが滲んでいる。

亜美は嬉しそうに微笑む。
「…もう少しだけ、手伝わせてください」

「そうか…。じゃあ、頼む」
それでも、少し目を細めて亜美を見つめるその姿には、放っておけない優しさが滲んでいた。

「任せてください」
亜美は少し照れくさそうに言い、また掃除に手を動かす。

夏樹は軽く息をつき、手元の作業に戻る。
冷たくも見えるその態度の奥に、亜美への無言の思いやりがあることは、亜美もよく知っていた。