反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 袋から取り出したお菓子を手に、小春は思わず顔をほころばせる。
「やった、ありがとう!楽しみにしてたの!」

 夏樹は軽く肩をすくめ、少し照れたように笑った。
「……だろ?そうだと思った。小春のことは何でも知ってる」

 二人は玄関を出て、夜の住宅街を歩き始める。
 春の夜風が柔らかく頬を撫でた。

「ごめんね。高松さん、可愛いから、なつくんが取られそうで心配になっちゃった」

 小春がぽつりと呟くと、夏樹は立ち止まり、ふっと小春の方を見た。

「心配すんな」
 低く、でも優しい声で。

「……でも、心配になるよ!亜美って…呼び捨てにしてるし」
 小春は少しふくれたように言う。

 夏樹は少し驚いたように眉を上げ、笑みを崩さずポツリと呟いた。
「……一番かわいいのは、小春だから」

 小春はその言葉に、一瞬息を止める。
 胸の奥がぎゅっと熱くなる。
 桜の花びらが、夜の街灯に照らされてゆらめく中、二人だけの世界が静かに広がっていた。

 無理に言葉を交わさなくても、手元のぬくもりや、見つめ合う視線だけで、心はじんわりと満たされる。
 小春はそっと笑みを浮かべ、手を握り返した。

 夏樹は袋の中のお菓子をひとつ取り出して差し出す。
「ほら、これ食べろよ」
「なつくん、歩き食べは禁止だよ!」

「小春は本当に真面目だな」
 夏樹は、はははと声をあげて笑う。

「明日はいっぱい話そうな」
「うん、約束だよ」

 小春はふと、手元にある夏樹の手を見やる。
 思わずそっと手を握ってみると、夏樹は何も言わず自然に指を絡めてきた。
 その温もりに、小春の胸はぎゅっと締めつけられる。

「……やっぱり、夏樹と一緒だと落ち着くな」
「……俺もだ」

 短い沈黙の後、二人は笑い合い、春の夜道をゆっくりと歩いた。
 この時間が、ずっと続けばいいのに――
 そう思うだけで、小春の心は甘く満たされた。