反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 夜。
 玄関のチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、そこにはコンビニ袋を提げた夏樹が立っていた。
「……おじゃまします」
 少し照れくさそうに笑う顔が、どうしても憎めない。

「……なんで、普通に来ちゃうかな」
 小春は腕を組んで、じとっと睨む。
 昼間のことを思い出すと、まだ胸の奥が少し痛む。

 けれど夏樹は、まるで気にしていないように言った。
「だって、今日一緒に帰れなかっただろ」

 その一言で、心臓がドクンと跳ねた。

「……それは、私が勝手に帰っただけで」
「勝手に帰るなよ」
「……怒ってるの?」
「怒ってねぇよ。心配しただけ」

 キッチンの方から、エプロン姿の母が笑いながら言う。
「ほら、夏樹くんあがって」

 夏樹はいつものように鞄を置いて席についた。
「かよちゃんが『ご飯作ったから食べにおいで』ってLINEしてくれたんだよ」

「……ちょっと! うちの母と勝手にLINEしないでよ!」
「いや、別にいいじゃん。かよちゃん、俺のこと息子みたいに思ってるし」
「それが問題なんだってば……!」

 顔を赤くして抗議する小春の横で、母がくすっと笑う。

 夏樹はスプーンを手に取りながら、どこか嬉しそうに言う。
「かよちゃんのカレー、久しぶりだな!」
「ほんと図々しい……」
 そう言いながらも、小春の口元には小さな笑みがこぼれる。

 母の作ったカレーの匂い。
 隣で当たり前のように座る夏樹。
 それが今の私には嬉しかった。