小春は胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じていた。
――見ていられない……!

 無意識に手元のタオルを握りしめ、息を整えようとするけれど、視界の端で笑顔の亜美と夏樹が自然に会話するのを見て、感情が溢れそうになる。

 そのとき、亜美の高めの声が響いた。
「桜田先輩って、いつも見学だけなんですか?」
 わざとらしく小首をかしげながら、亜美が夏樹の方を見上げる。

「……っ」
 小春の胸がちくりと痛む。

「だって、沢山サポートできることがあるのに、見てるだけなんて、もったいないですよね?」
 笑顔のまま、ほんの少しだけ小春を見て、唇の端を上げた。
 挑発とも取れるその笑みに、空気がピリッと張りつめる。

 夏樹は困ったように亜美を見て、「そんな言い方すんな」と小さく注意した。
 でも、それすらも亜美は嬉しそうに受け流す。
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて♪」
 小さくウインクまでしてみせる。

――……なに、それ。

 小春はタオルをぎゅっと握り直した。
 顔の熱を感じるのは怒りか、悲しみか、自分でもわからない。

 ついに、小春は耐えきれなくなった。
「……ちょっと、外に行く!」

 体育館のドアを勢いよく開けて飛び出す。冷たい春の風が顔に当たり、少し落ち着く。

 深呼吸をしながら、肩で息を整える小春。
――なんでこんなに胸がざわざわするの……

 しばらく体育館の外の廊下に立ち尽くし、心を落ち着けようとする小春。
 でも、背後から微かに聞こえる笑い声や、体育館の中での楽しそうな会話が、どうしても耳に入ってくる。

 小春はぐっと目を閉じ、気持ちを落ち着けようとしていた。