亜美は次に、練習中の夏樹のドリブル練習の横にちょこんと座り、ボールの動きを見つめながら質問する。
「先輩、このタイミングでパスをもらうんですか?」
小さな声だけど、真剣な目で見つめられる。

 夏樹は少し考えて、肩をすくめる仕草をしながらも、丁寧に答える。
「そうだな、相手の位置を見て、タイミングを合わせる」

 小春は思わず手元のタオルを握り直す。
――なんで私じゃなくて、あんなに自然に、隣で笑ってるのよ……

 さらに亜子は、夏樹が水を飲むタイミングでそっとペットボトルを差し出す。
「先輩、これ飲んでください」
「…あぁ、ありがとう」
 その笑顔に、夏樹は照れたように受け取った。

 小春は胸がキュッと締めつけられる。
――ずるい、ずるすぎる……私の夏樹なのに!

 その後も、練習の合間にちょっとした雑談を挟みながら、亜子は自然に夏樹の近くにいる。

 好意はあからさまなものだった。
 でも、夏樹は突き放すことなく笑いかけていた。
 笑い声や小さな質問、ちょっとしたボディタッチ――どれも無意識に小春を焦らせる。

 小春は目を逸らし、深呼吸をして落ち着こうとするけれど、心臓は早鐘のように鳴っていた。
――私だって、夏樹の隣にいたいのに……